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「そうですね。もうすぐキリが良いところまで打ち終えますから、後で行きます。お先にどうぞ。――それと、皆さんからは切符代をちゃんと頂いてますから、礼には及びません。兄さまも綺麗なご婦人方が良い席に来てくれて嬉しいといつも言ってますよ」 「やだぁ~、お兄様ったら、お上手だわぁ」 「お口が上手いんだから」 「流石、今大人気の活動弁士ね」 「じゃあ、今日はミルクホールにしようかしら。満穂さんの分も席を取っておくわね」 「有難う」  満穂が勤める新聞社にタイピストは現在満穂一人だけなので、満穂の負担は少なくない。  けれど、記事が仕上がるまでは暇なので写植や他の雑用を手伝ったりもするので、同僚との仲も良好だ。満穂のように素早くは打てないが、中にはタイプライターを練習中で少しは扱えるようになった者も居るので、満穂も体調不良などで欠勤、早退する時はお世話になっている。  いろんな客が珈琲や茶を楽しみながら会話に興じている店で女給をしていた頃もそうだったが、たくさんの情報が集まる出版社での仕事は楽しい。女学校で勉強していた頃とは違う、もっと世界の広さを知れる。
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