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 知的好奇心旺盛な満穂に、編集長の次に草稿が読めるタイピストは性に合っている。 「じゃあ、女子の皆で先に行ってるわね。――あら、加地(かじ)さん、おはよう」 「もうお昼ですよ。今出勤してきたの?」 「重役出勤ですこと」 「やぁ、おはよう。――違うよ、今まで取材に行ってたんだ。皆だって知ってるだろう?」 「帝都に帰ってきたばかりなら、今日はもうそのまま直帰して休めば宜しいのに」 「そうよね。そんな草臥れた風情でわざわざ出勤して来なくっても、加地さんの今回の取材の記事、急ぎじゃないって聞いたわよ」 「新聞じゃなくて来月発行の雑誌の企画なんでしょう? もう編集長に挨拶したら、今日のところはお帰りになったら?」 「困ったな。ウチのご婦人方は何故そうも僕を帰らせようとするんだい?」 「あら、失礼ね。心配してるのよ」 「取材先、京都でしたものね。長時間汽車に乗り続けていたら、腰や臀部が痛いでしょうに」 「京都から今お帰りという事は、夜汽車に乗って帰っていらしたの? 宿でゆっくりしてから朝発ってくれば良かったのに」 「……皆さん、そろそろお昼を食べに行かれるのだろう? 早くしないと、席が埋まってしまうぞ」
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