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「あら、大変」
「行きましょ」
優しさが前提にあるとはいえ、何とも口煩く姦しい女達にやいのやいのとやり込められ、彼は肩を竦めて彼女達を扉の向こうに追いやり、ふぅ、とため息を吐いて帽子を脱いだ。
「おはよう、満穂さん。久し振りだね」
「おはよう御座います、加地さん」
二十代後半の男性らしいエネルギッシュな若さと精力を持ち合わせ、端正な顔貌に鳶色の髪と瞳がよく似合う。面立ちだけではなく、スラリとした体躯は足が長く腰の位置が高くて、西洋人にも負けぬほど均整が取れている。
まるで役者のように見目麗しい青年だが、彼は役者ではなく、この出版社に勤める記者である。
そして彼こそが、かつてこの出版社の近くにあるカフェーで働いていた満穂をスカウトし、タイピストになるまでの学費を工面してくれた男でもあった。
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