子供にはあたりまえ

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「秩父神社の東側を守るのが青龍ですね。天ヶ池に住みついた龍が暴れたさい、この龍の彫刻の下に水たまりができていて、彫刻を鎖でつないだところ、龍が現れなくなったと言われています」 「もし龍がいるとすれば、この龍ですか」  龍が空に昇ると雨が降り始めるのだと、颯太は感覚で知っていた。  思わず尋ねた颯太に、尊が答える。 「どうでしょうね、いてもいいと思います。そう言う伝承ですが、この彫刻が裏鬼門を守っていることに意味があるのかもしれませんね」  急に颯太は自分の感覚に自信をなくした。  大地は『つなぎの龍』を撮り終えたのか、じっと颯太の様子を見ていた。  颯太の腕を引いた大地が、尊に礼をした。 「他に何かあったら、またお願いします。今日はありがとうございました」  尊は、にこやかにお辞儀して授与所へ戻っていった。 「俺は颯太の言っていることを、信じるよ」  大地は颯太を安心させるように、力強く言って、ずんずんと境内を歩いて行った。  大地が信じてくれるのなら、颯太は大地を信じようと思った。    夏休みは第三週に入った。
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