子供にはあたりまえ

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 大地の答えに頷いて、観光客で埋め尽くされた南門を避けて、西門から境内を出た。  打ち上げ花火のようにまっすぐ秩父神社の上空を昇っていった龍が、太陽に鱗を輝かせて見えなくなった。  颯太は、大地と共に自宅に帰りつくと、アスファルトにポツポツと雨粒が落ちて黒い滲みを作り、慌てて玄関で靴を脱いで居間にあがるころには、庭の紫陽花の葉が揺れるくらいザァーと雨足が強くなった。 「着いたばかりの観光客はタイミングが悪かったな、今頃びしょ濡れだ」  大地は同情したが、颯太は何の感情も湧かず 「まつり会館で雨宿りしてるんじゃない」  冷たく突き放した。  居間の窓から低い雲を眺めて、雲の隙間から旋回する龍の尾が雷を纏った。地鳴りのような音が、光に遅れて聞えてくる。 「あ! 洗濯物!」  颯太は思い出して二階のベランダに行き、急ぎ取り込む。  残念なことに雨に当たり湿っていた。 「洗濯し直しだ」  母が不機嫌になる顔を想像して憂鬱になりながら、洗濯機のドラムに放り込んだ。  颯太は台所で冷蔵庫から麦茶を出して大地に渡した。  大地が見ているスマホ画面を覗き 「上手く撮れてる?」  颯太は訊ねる。
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