子供にはあたりまえ

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『鎮守の森は異界と人の世の堺目。こちらにおいで。お主はその目で見る責任ある。お主がどこで道を違えたかを』  森の木々がケイタの前で子供が一人、通れる程度の道を開けた。森の中へケイタを誘う石燈籠が両脇にあり、ケイタの歩みに合わせて明かりを灯していく。  その明かりを頼りに歩いていると、だんだん方向感覚がわからなくなる。時間の感覚や、森の入り口からの距離感すら、ケイタには計れなくなっていた。  次々に淡い明かりを灯す石燈籠に導かれてケイタが辿りついたのは、朱塗りの神楽殿だった。  舞台の四隅に、天井から蠟燭が吊られていた。  ケイタは舞台が正面から見える位置に立ち止まった。  舞台上には女面をつけた着物装束の人影が現れ、蠟燭の灯が揺れる。首を垂れて面を伏せ、泣いているようだった。舞台の端には、猿面の小柄な人影と、男面が灯の届かない奥に控えている。  すっと男面が立ち上がり中央へと歩を進め、蠟燭の炎がゆらゆらと面を照らし、不穏な表情に見える。  ケイタは、一体なにが始まるのかと、息を吞んだ。
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