子供にはあたりまえ

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 男面が姿勢を伸ばして舞台の真ん中で、ぐっと顔をあげた。 「そうやってお前は何でも目に見えないものや霊のせいにしていれば、自分をかえりみなくてもいい免罪符にして、現実や問題から逃げているだけだ。自分の行いを反省しなくていいのはラクだからな」  鋭利な言葉に母は項垂れ、ケイタの胸をまた刺した。  男面が明かりの届かない奥に消えていく。  あの日、父は出て行ってしまった。  ケイタが神様の声を聞いたから、家族が壊れてしまった。  過去をなぞり、ケイタは舞台から目を背けようとした。  女面がさらに泣き崩れ、神楽囃子はどんどん激しくなっていく。床に伏せた女面が次に顔をあげたとき、その顔は鬼面に変わっていた。 恨めしそうに、男面が消えていった暗がりに向かって拳を床に叩きつける。  ケイタは息を吞む。 「なぜあなたは信じない。あなたは神様の声に反したことをしているのよ」  舞台奥の暗がりに体を向きなおらせた鬼面は、男面を呪うような口調で続ける。 「私たちは選ばれたのよ、ケイタの存在によって。あなたが間違っていることを思い知らせてやるわ」    鬼面の低い声が地を這うように、それを見ていたケイタに絡みつく。
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