子供にはあたりまえ

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 鬼面は、舞台に残された猿面を優しくうやうやしく撫でる。 「私の元にはケイタがいるもの、神様の声を降ろす特別な力を持つこの子が。選ばれたのよ私たち」  そう言うと、猿面の頭を自分の膝の上に乗せた。  神楽囃子は打って変わって細い笛の音だけになり、猿面が体を丸めると、音が消えていく。  神楽殿を照らしていた四隅の蠟燭も消えた。  ケイタは呆然とした。  いま、何を見せられていた?  ケイタの記憶にない場面が再現されていたのか?  父があの日、家を出ていった記憶はあるが、そのあとの母の言葉はケイタの記憶にはない。  覚えていた思い出と異なっている。  あれからどうなったかは、わからない。  ケイタと母を置いて家を出ていった父を悪者にしていれば、平和だった。
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