子供にはあたりまえ

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母が不安定になったのは父のせい。  母がケイタ自身を見なくなったのも父のせい。  神社を巡って人を集め、母が神様の声にのめり込んでいったのも、父のせい。  生活のために、それでお金を貰わなければならなくなったのも、父のせい。  ケイタのそばの石燈籠が淡くあたりを照らす。  力が抜けて、その場にしゃがみ込んだ。  初めは本当に聞こえていたんだ、温かく小さな声が。  いつからか本当に聞こえた声よりも、大人の期待に応える言葉をケイタは口にするようになり、あの声かわからなくなってしまった。代わりに聞こえ出したのは、母を介して集まてくる大人どもの思考の声だった。  なのに母の思考の声だけ聞こえない。  怖かった。母が何を考えていたのか、聞こえなくて良かった。  ケイタを道具としか見ていなかったら?  気がつかないようにしていた。シャットアウトして蓋をしていたのかもしれない。  神社巡りを始めたばかりの頃は、母の知り合いや友人の小さなグループで参拝していたが、そのうちSNSで同志を集めてケイタにメッセージを降ろさせて、ツアー代をとるようになった。  ケイタの同級生の親たちが、自分の子供をケイタに近づけさせないようにしていることを、ケイタは知っていた。ケイタからも同級生に近づくことを、しなくなった。  
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