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家に帰っても、次の神社はどこへ行くか母が聞いてくる。母がリストアップした神社を適当に指して
「ここに呼ばれていいるよ」
と言えば母と、その取り巻きは喜んだ。
母が望むメッセージを降ろしているあいだだけは、母もケイタを見てくれた。
神様の声を聞ける子供としてもてはやされるのも、今のうちだけだ。終わりは見えている。あと三年もすれば、価値がなくなる期間限定の存在。
何もかも現実で上手くいかないから、余計に神様からのメッセージに傾倒していく大人どもを見て、ケイタの感覚は麻痺していた。
現実にはあり得ない存在にお墨付きがもらえれば、自分を肯定できるんでしょ?
神様の使命が与えられたら、自分が必要とされていると安心できるんでしょ?
身近な人の言葉を聞かずに、神様のメッセージは信じるのか。
中には、神様のメッセージに夢中になりすぎて、家族が神社巡りのツアー先に怒鳴りこんできた女性参加者もいた。
家に帰ったほうがいい。
そう伝えるほうが、その女性のためだとケイタはわかっていた。まだ僅かにケイタの中に良心と常識が残っていたことに、その時は驚いた。
「自分の気持ちを抑えつけずに、自分が思った通りに行動して」
と、実際にはどちらにも取れる言葉をケイタは言った。それが、せいいっぱいのケイタからのメッセージだった。
すると女性は目を潤ませて言った。
「わかりました、それが神様のメッセージなんですね」
ケイタの言葉として捉えてはもらえないのだ。
自分に都合のいいものを人は信じる。
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