子供にはあたりまえ

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 その後、女性は家族と縁を切り、経済的に困窮するまで神社ツアーに金を支払い続け、やがて、ケイタの母たちから離れていった。  ケイタはもうあとには引けなくなっていた。  大人がケイタに飽きるまで、これを続けるしかない。  ケイタの苦しさは一体、誰に話せばいいのだろう。  再び神楽殿に明かりが灯る。  ケイタが顔を上げて立ち上がると、舞台の中央に猿面がいた。  ケイタに問う。 「君が、一番したかったことを教えて」  ケイタは首を横に振った。 「やりたいことなんてない」  猿面が続けて問う。 「神様の声を聞くことがやりたかったの? 本当は何になりたかったの? 何をしたかったの?」  ケイタは手で両耳をふさいだ。 「わからない」 「思い出して。母親が君にさせたいことではなくて、なりたいものがあったはず。このままだと自分がしたかったことすら思い出せず、『自分に向いていることは何ですか』と他人に聞いて回る大人になってしまうよ」  猿面が言うように、ケイタのもとにも同じような質問をしてくる大人がいた。 「私に向いている仕事を神様に聞いてください」
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