子供にはあたりまえ

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 と聞かれたことが何度もあった。そのたびにケイタは同じ答えを返した。 「思わぬ巡りあわせが待っている。タイミングが来れば神様がサインを送ってくれる」  ケイタに聞かれても具体策などわからない。神様に聞いても応えてくれたことなどない。  それでも食い下がってくる大人には 「得意なことを活かせる環境を作るといい。努力せずに出来ることがあなたの天職だ」  そう答え、どんな仕事かは口にしない。  明確に自分の中に正解を持っていて、それを言い当てて欲しい人は、神様から成功を保証してもらいたいのが透けて見える。疑いの目で見ている大人は大体ここで離脱する。 「私の得意なことってなんでしょうか。何もないんです」  さらにこんな質問をしてくる大人も何人もいた。 「あなたが子供の時の文集を見てみればいい。あなたの中に住んでいる子供は知っているはず」  と告げ明言はしない。  小学生のケイタから見ると、文集に書く『将来のなりたい職業』なんて、なんとなくクラスの空気を読んで、様子を見ながら流行ってそうな職業を書いているだけで、十年後二十年後の自分が見て就職や転職のヒントになんてならないだろう。
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