子供にはあたりまえ

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 猿面の幼児は、翁面が写真を撮るたび成長していく。 「写真屋さんになるにはどうしたらいいの?」  四回目の撮影が終わったとき、幼い猿面が、翁面に質問した。 「たくさん写真を撮ってみるといいですよ」  猿面の前で背をかがめて翁面が答えた。猿面は振り返って男面に無邪気に言う。 「お父さん、ぼく写真屋さんになりたい。写真をとりたい」 「めずらしいな、ケイタが自分から何かしたがるなんて。そうか、写真を撮るならカメラを買うか……」  呟いた男面が、迷うように上を向いた。  翁面がショウケースから大事そうに持ってきた小さなカメラを、男面と、幼い猿面に見せた。 「トイカメラならお子さんでも、手軽に写真が撮れますよ」  猿面の小さな手のひらにトイカメラを乗せた。  猿面は一目で気に入って、男面にねだった。 「これ、ほしい!」 「普段からわがまま言う子じゃないし、いいだろう。ケイタ、これは誕生日プレゼントだ」 「ありがとう、お父さん!」  猿面はお礼を言ってから、わくわくした様子で翁面に訊ねる。 「これで写真とれる? おじさん、これどうやってとるの?」
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