子供にはあたりまえ

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 翁面にフィルムの入れ方と、写真の撮り方を教えてもらって猿面は 「いっぱい写真とって写真屋さんになる!」  と、飛び跳ねる。男面と翁面は顔を見合わせて笑いあった。 「そうだな、ケイタは写真屋さんだな」  猿面の頭を、男面が撫でた。   「いつも何もしない癖にこんなときばっかり、、父親ぶるのね」  女面が忌々しげに言って、明りの届かない奥へとさがる。  その姿を目線だけで追った翁面が、何か言いたげに父子を振り返った。  翁面は舞台から、語りかけるように空間を見上げた。 「長年、写真館をやっていると、家庭が壊れていくさまを写真におさめてしまうときも、あります。このご家族は次の年が最後に集合写真でした」  じっとケイタは正面から、舞台の翁面が語る過去を聞く。  毎年、ケイタの誕生日に家族写真を撮っていた。そんなこと、忘れていた。 「陰ながら成長を見守ってきたお子さんでしたので、ご来館がなくなってしまい、残念に思っています。  親より大人びて見える子でした。あの子は、どうしているのかと、ふと思い出します。  健やかに育っていてくれるよう祈るだけです」
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