子供にはあたりまえ

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 翁面が口元に手をかざして、手近にある蠟燭を吹き消す仕草をした。  明かりは消え、舞台は闇の中に静かに佇む。  ケイタは混乱して叫びだしそうになる。  記憶から抹消していたのは、写真館だけではなかった。  そこから紐づいて思い出したのは、父が家を出ていったとき。母が、父が写っている写真を燃やして、父の荷物をすべて処分して、ケイタが買ってもらったトイカメラを母が取り上げ床に何度も叩きつけたあと不燃ごみとして捨ててしまった。  ケイタがどんなに泣いて止めても母の怒りはおさまらない。  トイカメラは戻ってこない。  写真屋さんになりたかったことも、固く心の底に封じこんんだ。  思い出したくもなかった思い出を。  頭の中が整理できない。動けなかった。
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