子供にはあたりまえ

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「ここまで過去を見てきた君は、誰かを悪者にすれば気が済むか?」  後ろから声をかけられて、ケイタの体が跳ねる。  振り返ると猿面が立っていた。 「誰かは誰かの悪者で、その悪者から見た誰かも悪者になる。だが人は、自分が悪者として行動している自覚はない。意識的に悪者を演じているやつを別にして、自分が誰かの悪者になっているとはまったく考えない。なのに自分が正義をふるうときだけ自覚的だ。誰にとっても悪者にならない人間なんていないのにね」  猿面が淡々と語る。 「ただ己の道理に合わない者を悪者にし、敵とみなす。善人に見える人間でさえ、誰かの道理に合わなければ、誰かの敵だ」  猿面がため息をつく。  どうも猿面の言うことは理屈っぽくて回りくどい。 「何もしていなくても?」  ケイタの問いに 「何もしていないからこそ悪者だ、敵だ、と攻撃的になるやつもいる。君の母親が言っていただろう? 君の父親に」 「あ……」  舞台で女面が言っていた。 『いつも何もしない癖にこんなときばっかり、父親ぶるのね』  思い当たったケイタの表情を見て猿面が続ける。
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