子供にはあたりまえ

39/85
前へ
/85ページ
次へ
「ところで、こちらに来る前、紗幕のかかった人の世の境内で、君と一緒に飲み物を口にしたのは、あの二人の子供たちだけではなかっただろう?」  ケイタの母もオレンジジュースを飲んでいた。  猿面が「ここで待ってて」と神楽殿の裏へ回り戻ってきたとき、ホウズキがたわわに実った枝と、咲いているテッポウユリの枝を持っていた。  近くの石燈籠の明りをホウズキの実に移すと、ケイタの足元を照らす。そのままスッ……とケイタの前に立って猿面は、ゆっくり歩きだす。ケイタはついていくか迷った。 「ここで立ち止まったら、君、帰れないよ?」  ケイタに背を向けているのに、猿面は迷いを見透かしている。  一歩踏み出すと、ホウズキが照らすケイタの足元に石畳の小道が続く。猿面の背中を見失わないように、歩く。  猿面が薄暗い中、ホウズキの行燈を持ち上げると社殿の鮮やかな色彩が浮かび上がる。  社殿に向かうのかと思ったら、猿面が石畳を外れて社殿の脇に回り込む。  ケイタの歩幅で跨げる程度の浅い小川が流れていた。 「ならの禊川だ」  猿面が小川の淵で足を止め、しゃがみ込むようにケイタを促す。  
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加