子供にはあたりまえ

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 茶色の背表紙が並んだ本棚に、『秩父神社建立起源』があり、颯太はそれを手に取りページをめくった。  秩父神社は二度焼失しており、昭和四十一年九月には台風で境内の老大木が倒れて社殿が破壊されたため同四十五年に、可能な限り旧材を用いて社殿を竣工改修工事し、社殿周囲の飾り彫刻類をすべて彩色し直して現在の社殿になった。 「うーむ……」  颯太が唸ると 「よくわからないから、司書さんに聞く?」  大地が丸投げ発言をする。 「貸出し禁止だし、コピー取れればいいんだしさ、サクッと見つけるために聞きに行こう」 「いや、必要な情報くらい自分たちで探そうよ」  颯太は渋る。 「颯太、融通が利かねぇ。俺、聞いて来るわ」  資料室を出て行ってしまった。  一人、取り残されて、ページをめくっていると……。  肘から下の白い手が、ニョキっと出てきて厚さ一センチくらいの本を床に落とした。 『秩父神社再建・昭和四十五年』と青い表紙に印刷されていた。  颯太がその本を拾うと、白い手は消えた。消えたあたりに少し大きめな声で「ありがとう」と伝えてから本を開く。 ドアの外で話し声がして、大地と司書がノックしてドアを開けた。
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