子供にはあたりまえ

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 猿面は川底から目を離さず、ケイタに問う。 「君はこの母親と、いくつの神社を巡ったか覚えているか?」  覚えていない。ケイタは答えを探すように猿面を見つめる。 「この秩父神社で、百社目だ」  それが何か意味でもあるのか、と猿面に聞き返そうとした。 「君の母親は百社願をかけていたんだよ、意図していたかどうかは知らないけどね」 「ひゃく、しゃ……がん?」  耳慣れない言葉が出てきて、ケイタはオウム返しする。 「そう、秩父神社の天神地祇社、七十五座のお祀りしている神々をすべて巡って余る願をかけた。ご祭神であるヤゴコロオモイノカネノミコト様が、神々の意見をまとめられて、ご聖断を下された」  一旦、猿面は言葉を切り、ケイタを試しているように見据えた。 「君の母親である、日野原清香の願いを叶える、と」  ケイタは声が出ないくらい衝撃を受けた。  本当に母の願いを叶えるというのか……。  そして猿面が、母を旧姓で呼んだのがケイタは引っかかった。
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