子供にはあたりまえ

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 だが母の望みの世界にケイタが登場することはなかった。  ケイタは頭を鈍器で殴られたように衝撃を受けた。川底の母の姿を見つめる。  本当は自分でもわかっていた。母の中にケイタがいないことを。  今までケイタの力なしに、ケイタ自身を見たことなどなかった母が、自分で力を手にした状態でケイタを必要とするわけなどないと、これで証明されてしまった。  必要ないんだ、母自身が力を持ってしまったら、ケイタなど母の中から消えてしまうんだ。  それに気づいた瞬間、ケイタの口から笑いが溢れだした。  笑い発作を起こして、笑い続けた。  ケイタが慕っているようには、母はケイタを思ってくれてはいなかった。  薄闇の中にケイタの笑い声は響き、猿面は黙ってケイタが落ち着くまで、川底に目を落としていた。  笑い疲れ放心していたケイタに猿面は、川底から目線を上げずに言った。 「良かったじゃないか、君はこの母親の願望の道具にされずにすむんだ。君が日野原清香に、このまま服従していたら、数年後、どうなっていたか、想像はついただろう?」
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