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よく手入れされたツヤツヤの黒髪は真っ直ぐに肩の下まで伸ばし、目尻にあった小さな皺も、口元も額も、アイロンでもかけたようにピンとしていて、それなのに造花のような印象と、険しい表情が、ケイタの知る清香とは別人だった。服装もヨレなどなく、洗濯物を干すときにテキトーにハンガーにかけていたズボラな清香が、自力でこんな綺麗な服装ができるわけがなかった。
「清香さん、周辺の方々から苦情が……」
言いかけた女性に、冷たく
「知っているわ」
清香が言い放つ。
「これからは一日一組、予約が取れた方だけにしましょう。広がりすぎたわ。悪いけど、明日から断ってちょうだい。真田さん、よろしね」
真田、と呼ばれた割烹着姿の女性は、清香に頭を静かにさげた。
清香が自室に戻ったのを確認して、真田が家事をし始める。清香の身の周りの世話を真田がしているようだ。
真田の肩越しの景色が続く。
父が使っていた書斎のドアを真田が開けた。
あの部屋はケイタが覚えている限りでは閉め切っていたはずだ。が、すっかり様変わりしていて、真田が住んでいるらしかった。簡素な机とその上にノートパソコンと
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