子供にはあたりまえ

5/85
前へ
/85ページ
次へ
「あ、もう見つかりました」  颯太が司書に頭を下げた。 「えっ?」  司書が驚いて、颯太の手にした本を見つめ、呟いた。 「よく見つけられたね、見落としがちなのに」 「すみません」  大地が謝ると「ごゆっくり」と笑顔で一階へと戻って行った。  特別、白い手のことは大地に言う必要もなかった。 「これ、まるっとコピーして縮尺図面に起こそう」  大地が先に資料室を出る。颯太はドアの手前で振り返り「バイバイ」と小声で言った。  視界の端で白い手がゆらゆら揺れていた。  一階で本のコピーを隅々まで取って、先程の司書に本を返すと、図書館を出た。  それから平日五日間は、颯太の自宅の居間でコピーした資料を基に百分の一スケールの図面作成をして、パーツごとに分類した。  土曜日は颯太の父が車を出してくれて、大地とホームセンターにベニヤ板を買いに行った。  工具は颯太の父がDIYに凝っていた時期があり、今はまったく使用していない工具を使わせてもらうことにした。  夏休み第二週からはベニヤ板を切り、図面と照らしながら、ひとつひとつにナンバリングしてゆく地味な作業が続いた。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加