子供にはあたりまえ

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 手を打つ音がして猿面、壬申のほうを見た。  壬申の小脇にテッポウユリと、まだ明りの灯ったホウズキを挟んで、手を打った型のまま、告げた。 「そこまで。子供たち、忘れたわけではあるまい。ここにくる前に我が主様が言われたことを。のんびりおしゃべりしている場合ではないのだ」  この場にいるケイタだけででなく、颯太と大地にも壬申の緊張感が伝わったようだ。  その場の気が急に圧縮されたように、上からケイタを押しつぶそうと、重圧がかかりだした。  思念の中に張りつめた弦を引っ張ったときのような、細かい痛みが混じる。  やがてその痛みの感覚はビリビリと全身に走り、周りの空気も震えだした。  壬申が跪き、こうべを垂れる。  ケイタも立っていられなくなり、膝をついた。 「なにが……」  起きている?  と、壬申に訊ねかけて、ケイタは声が続かない。  肺が圧迫されて息ができず喉が締まった。 「我が主様の神圧だ、頭を下げろ、呼吸を吐け」  壬申が小さく、そして素早くケイタに言う。  尋常でない重圧に壬申に言われた通りに頭を低く下げて、ケイタは呼吸を吐ききる。  冷や汗が首筋や背中から噴きでる。
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