子供にはあたりまえ

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 答えながら壬申はケイタを促し歩みを進める。 「本来ならば容赦なくここからひとりで帰らせてしまうのだが。だが……」  足を運びながら壬申が言いよどむ。 「私の独断で、このホウズキの枝を君に渡す。おそらく我が主様は、私がこうすることも思慮に入れておられる」  自分に言い聞かせるような壬申の言葉に、ケイタは目を伏せた。 「壬申はいいやつなんだな。すごく意地悪なことを言うやつだと思っていたのに」 「意地が悪いかは人間の受け取りかたしだいよ。立場によって見えかたは変わるものだ」  話しているうちに、鬱蒼ととした木々の折り重なりが開けてゆき、ぽっかりと人が通れそうな隙間ができている。 「ここを抜けたら森の出口だ」  指をさす壬申が言う。  それから壬申はケイタの持つホウズキに語りかけた。 「あの二人の子供たちのところへ導いてくれ」  返事でもするようにホウズキが、ちかちかと明滅する。 「ここからはケイタ一人で行け。私がしてやれるのは、ここまでだ。じゃあな」  壬申はケイタに背を向けようとする。 「壬申も元気で。ありがとう」  ケイタは手を振り、木々の隙間に踏み出す。
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