子供にはあたりまえ

60/85
前へ
/85ページ
次へ
 さえぎるように大地が、颯太の目の前で手をかざしてひらひら振り、正気に戻そうをする。大地に反応できずにいると目を見て、一音ずつくぎるように聞いてくる。 「ど、う、し、た?」 「あ……あぁ」  大地に生返事をして、颯太はあの感覚を反芻していた。  肌が粟立つようにゾワッした。何だろう。初めての感覚だった。魂に初めて触れられた……直接、響く、剝きだしの魂に触れられた。自分の中に浮かび上がるどの言葉も、あの感覚を的確に表しきれない。  どうした、と大地に訊ねられても、説明できない。  颯太は放心したまま、もう一度、あの感覚を味わいたいと思っている。  できることなら、ずっとここから動きたくない。余韻を追いたい。あの感覚、魂にまた触れてほしい。もう一度。……動けない。  いろいろな感情が颯太の心の中を占めていた。  背筋から脳の内部まで走る、ビリビリした、体の芯から湧き上がってくるような、不思議なあの感覚に囚われた。  脳の、体の、心の、魂の、内側に、深く、入り込んでくる……感覚と感触。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加