子供にはあたりまえ

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 颯太が動けずにいると、大地が手をつないでくる。 「しょうがないな。オレが引っ張ってく」  颯太を立ち上がらせて手を引いた。  ケイタがホウズキに語りかける。 「ここから脱出するために案内してくれ」  実の光りが、何度か瞬いた。ケイタが先頭を歩き出す。  まだふわふわしている颯太は、引かれるままにのろのろと大地についていった。 ケイタが、手に持つホウズキの枝を前方に一八○度、照らして明るく灯った方向へ足を向ける。  なんの目印もない、道もない空間をひたすらホウズキを頼りに歩いている。  颯太はまだうわの空だった。地に足がつかない。  以前、颯太の父が冷蔵庫の隅に隠していた缶チューハイを、ジュースと間違えて飲んでしまったときを思い出した。いまはその酔いに近い。  一番後ろをいく颯太の背後から、タッ、タッ、タッ、と足音がした。酔いは一瞬で、ぞわりとした冷気に変わり、颯太は鳥肌が立った。 「振り返えらないで」  先頭をいくケイタが硬い声で、鋭く注意してくる。  ホウズキの実をひとつ、もぎ取りケイタが前方を向いて進みながら、後ろへ軽く
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