子供にはあたりまえ

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投げると、足音はそれを追って、颯太から離れていくのがわかった。  颯太の手を引く大地の力が強くなり、ケイタの速い歩調に遅れないようにしていた。    颯太が、遠くの空を見上げると、まるで雨上がりに雲が割れて、射しこむ陽ように、ぽっかりと照らされた明るい一帯が見えた。 「あの空、見て! あのへんが明るい!」  思わず颯太は大声を出していた。 ケイタも空を見て、その方角へホウズキを向け、確認する。 「行ってみよう」  迷わずケイタが向かおうとしたとき、呼び止める声がした。 『おーい』 『おーい』  徐々に声は近づいてくる。  ケイタがホウズキの実を後方に投げる。 「急ごう」  ケイタにも焦りがある様子だった。  ずんずん進んで、明るい一帯が、颯太たちの目の前に広がったとき。  三人とも、ほっとして息をついた。気が緩んだのかもしれない。 『そっちじゃないよお』  と声がして、颯太も大地も、そしてケイタも声のした後ろを、振り返ってしまった。 『やっと振り向いた。振り向いたから、喰っていい』  大きな黒い犬が数十頭取り囲みむ。荒い息をあげて、ひときわ大きな黒い犬が、もう一度言った。
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