子供にはあたりまえ

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『ここで喰われろ』  黒い犬たちが 『子供、ひさしぶり』 『子供、やわらかい』 『子供、うまい』  と口々に言い、頭を低くして飛びかかる姿勢をとる。  颯太の視界の端で、慎重にホウズキの実に手をかけようとするケイタが見えた。  黒い犬たちに気づかれないように、そっと実を取って、ケイタが思いっきり遠くに放り投げると、家犬が取って来いをするように、ホウズキの実の放物線を追いかけて一斉に群がっていった。  不謹慎に颯太が笑いそうになっていると「走れ!」と大地が、強い言葉と同時に、ぐいっとついだ手を引く。  ハッとして颯太はもつれる足で、大地を追う。水中を走っているようなもどかしさで、思うように足が運ばない。  颯太はほぼ引きずられるような形で走る。  ケイタが明るい一帯の中心にホウズキを向けると、輝きが増していく。  中心地に球体があった。  ホウズキはそこを目指せと言うように、球体と共鳴して響きあっている。  明るさを競っている。 「この球体の中だ」  ケイタが球体に飛びこむ。  一歩、遅れて大地が颯太をひっぱって球体に飛んだ。
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