子供にはあたりまえ

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 三人が球体の内部に入ると、取り巻いてくる黒い犬たちが、ばらばらに吠える。手出しできないらしい。  球体が三人を格納する。  颯太たちの体に、圧がかかり、球体が上昇する。  球体の内部は、眩い光と陽だまりの温かさのようなゼリー状の感触で満たされていた。  肌を包む暖かい安心感が、心地よくて颯太は瞼を閉じる。  浮遊感が続き、颯太は眠りに落ちた。  痛いほどの風を感じて、颯太は目を覚ました。 「あれ……光は……?」  呟きながら周囲を見渡す。  秩父神社の境内だった。  あたりはまだ紗幕がかかっていて、薄暗い。  大地とケイタがいるか、確認した。大地が瞬きしながら、颯太を見ている。  ケイタが手に持っていたホウズキの実をひとつずつ、颯太と大地に手渡してきた。 「もとの世界に戻ったら、これを飲むように言われているから」  ホウズキの赤く膨らんだ袋の部分を開けて、実を取り出し、三人で目を 合わせながら、無言で飲み込んだ。喉がなる。  三人が、ホウズキを飲み込むと、するする紗幕があがっていき、夏の空気が動き始めた。
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