子供にはあたりまえ

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 秩父神社の境内は、ゆっくり景色の色を取り戻していく。  ホウズキを飲み込んだあと、颯太は額が熱くなりチリッと蚊に刺されたような微かな痛みがした。額を押さえて、二人を見る。大地は顔をしかめて、ケイタは僅かに眉をひそめた。額に手を当てた大地が、ケイタを指さす。 「え、なんか痣ができてる」  言われたケイタが颯太に目を向けた。 「痣が」  颯太は大地に目線を送る。 「大地も額に痣できてる」  三人で顔を近づけて、お互いの額に親指の爪くらいの痣があるこを確認した。  そのとき、トレイを手にしたままだった巫女が、首をかしげる。 「あれ? 私、何してたんだろ?」  空になったコップを回収して、不思議そうな表情で社務所のほうへ戻っていった。  尊が我に返り、顔を引き締めた。  やがて蝉の声が颯太の耳に聞こえてくる。息苦しいほど蝉の声が満ちていた。 「颯太、眼が灰色になってる……」  大地が近距離で指摘してくる。 「えっ?」  自覚していない変化に、颯太は戸惑った。大地の外見は、痣以外の変化はないようだった。ケイタが左耳を押さえている。 「いま、蝉の声がしているのか? 左側、聞こえない」
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