子供にはあたりまえ

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 体をこわばらせてケイタが呟く。 「半分は、左の聴覚ということか」  その場にうずくまったケイタの背中をさすって、颯太はかける言葉を失った。 「左耳の聴覚を置いてきた」  衝撃が強いのかケイタは小声で繰り返している。 「大地は何ともないのか?」  呻くような声でケイタに問われた大地が 「ケイタが左耳を押さえている景色が、五秒前に見えた。信じられないかもしれないけど」  と答えると 「いまさら何が起きても疑ったりしないよ」  僅かにケイタが顔をあげて、大地を見上げた。 「颯太は?」  ケイタが颯太にも問いかけくる。 「どこも痛くはない。眼は鏡で見てみないと何もわからないけど」  颯太がケイタの背中をさすっているのを、ケイタの取り巻き大人たちが、何事かと様子を伺っている。急に子供たちが集まって、大人には理解できない会話をしているのが、不自然にみえるのだろう。ここにいる大人たちからすれば、さっきまで、ただ境内に居合わせただけの、出会ったばかりの子供が、ケイタを案じているように思えるだろう。大人たちの好奇の目から、ケイタをかばうように大地が
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