子供にはあたりまえ

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「尊さん、こいつ熱中症みたいだから、どこか涼しくて横になれる場所に連れていきたいんだけど」  機転を利かせた。ケイタの母、清香は、うわの空でボーっとしている。尊がケイタの腕を取る。 「歩けますか?」 ケイタが無言で頷いた。  颯太が、ケイタの取り巻きの大人たちに声をかける。 「ぼくたちがケイタのそばについてるから、おばさんたちはお参りを続けていていいよ」  清香は、ケイタを見なかった。心ここにあらずで、宙を見つめていた。  社務所の奥の、エアコンがきいた部屋に通された。座布団を枕にして、尊がケイタを畳の上に横にならせた。 「仕事が残っているので行きますが、気分が悪くなるようなら、病院に行ってくださいね。あとこれ」  尊が手渡してきたのは、よく冷えた市販の経口補水液のペットボトルだ。 「ありがとうございます」  目を閉じているケイタの代わりに颯太が受け取って、お礼を言う。それをケイタの荒い呼吸で上下する胸のあたりに置いて、落ち着くまで待った。  やがてケイタが半身を起こして、ペットボトルの中身をゆっくり飲み始めた。 「良かった……」  颯太も大地もほっとした。
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