子供にはあたりまえ

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 颯太にとって勉強は手段で、目的は塾だった。  塾に行きたかったのに。父から渡された学習タブレットに落胆した。  言うまでもなく学習タブレットを使うこともなく、父はクーリングオフ期間中にそれを返品した。  そのくせ父も飽き性で、カメラにハマって買いそろえたのに、カメラの性能だけに助けられている空の写真を撮り、インスタに上げていたが、ものの一ヶ月でカメラをフリマアプリで手放していた。  颯太の飽きっぽいところは父に似たのだ。  父が何かに凝り始めても、母は何も言わずに、父のブームが過ぎ去るまで根気強く見守っていた。  たまに颯太の中で、父から受け継いだ飽き性と、母から受け継いだ根気強さが衝突することがある。どちらが勝つか颯太自身にもわからないが、通知表の担任の一言欄には「気分屋なところがあります。直して行きましょう」と書かれてしまう。颯太にコントロールできない深い部分で衝突しているのに「直して行きましょう」もない。そのことに母がうるさく言わないでいてくれるのが、颯太にとって救いだった。
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