子供にはあたりまえ

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 清香に目をやると、先ほどよりも明らかに表情がない。まるで何か、聞こえない声が反響している山からの木霊を聞いているみたいに、耳をすましていた。  ミドリが清香に 「体調悪いの? 昨日からちょっと気にかかってたんだけど、何かに怯えているみたいに見えるけど、何? 私たちを怖がらせたいの?」  言いかかる態勢になっている。二人のあいにケイタは割って入る。 「疲れてるんだと思います。宿坊で早めに休もうか、お母さん」  ミドリが渋々、引き下がる。 「そういうことなら、先に言ってよ。私とナツノさんは拝殿にご挨拶に行ってくるわ。宿坊で休んでなさいね。あ、奥宮にも登るから。ケイタくん一人で大丈夫?」  一点を見つめて動かなくなっている清香を顎で指して、それでいいか? と聞いているのだ。  フリーズしている清香のことが、あからさまに面倒くさくなっているようすだった。  清香の腕をケイタが引く。 「疲れたんでしょ? 休めば良くなりますよ」  清香とミドリを交互に見た。ミドリが深いため息をつく。 「何、子供に手間かけさせてるのよ。ほら、行くわよ」
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