子供にはあたりまえ

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 心ここにあらずの清香の腕を、ケイタとは反対を持って、ミドリが支えた。  おろおろしていたナツノがケイタとミドリの分の荷物を持つ。  三ツ鳥居をくぐり、まっすぐ宿坊の興雲閣に向かった。  社務所から繋がっている興雲閣の入り口でミドリが事情を説明して、少し早く部屋に通してもらった。清香が座りこみ、ぼぅっとしているのにもかまわずに、ミドリが布団を一組、敷いた。清香を横にならせると 「ゆっくり休んで」  と言いおいてミドリはナツノと部屋を出ていった。  ケイタは横になっている清香に 「何か見えるの? 聞こえるの?」  話しかけるが、反応がない。現実世界をシャットアウトしているようにも見える。 「ぼくは拝殿に行ってくるよ」  ケイタが立ち上がろうとしたとき、清香に凄い力で手首を掴まれた。小さな声で清香が何かを言った。何を言ったか聞き逃した。 「怖い」  今度ははっきりとそう言った。掴んできた清香の手が震えていた。 「怖い」  再び言うと、清香は縋るようにケイタの顔を見つめてくる。 「行かないで」 幼児のような口調で懇願している。  ケイタはなるべく穏やかに告げた。
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