子供にはあたりまえ

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 清香に何も言うことはない。  握られていた手首が白くなるほど力をこめていた清香の手を、ケイタは払った。 「いいかげんにして。これからは一人でやっていけるでしょ。お母さんは力を与えられたんだから。どうにかしたいなら、自分で聞いてみてよ。ぼくはお母さんの、便利な道具じゃない」 「誰がいままで育ててきてやったと思ってるの?」 「いまはそんな話、してないよ。話をすり替えても、何も解決しない。じゃあね」  まだ何かを叫んでいる清香を遮って、ケイタは部屋の戸を閉めた。閉じた戸の向こうで清香の「死んでやる!」という声が聞こえて、苛々した。  なるべく参拝者が少ない参道を選んで、ケイタは歩いて行く。  携帯のメッセージアプリに、担任教師の名前で登録していた父のアカウントを表示する。  もしも父の名前で登録していたら、清香が消去していただろう。  息子の携帯を勝手に覗いて、勝手に消去することを、平然とやってきた人だ。
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