子供にはあたりまえ

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 算数ドリルを終わらせて、居間のテーブルでぐったりいていると、風呂上がりの父が発泡酒を出してきて、テレビをつけて座椅子に座り、ちびちびやりだした。  母は台所で洗い物をしている。 「颯太も風呂に入ってこい」  父が声をかけてきた。  夕方のニュース番組が流れてる。自動車が歩道に突っ込んで小学生を撥ね、一人死亡と報じ、現場に献花する人々を映していた。映像がひしゃげたフェンスに切り替わった瞬間、耳鳴りがして『親の泣き顔が見たかった』と低い嗄れ声が聞こえてきて、颯太は身震いした。  父と母には聞こえていない声だろう。  平静を装って「お父さん、チャンネル変えてもいい?」と聞くと「ああ」と父が答えた。  特に見たいわけでもないが、野球中継に変えた。スポーツ中継が一番、害がない。  父は颯太の身震いに気をとめることもなく、アルコールでご機嫌だった。  颯太は、自分の両親は、いたって普通の人だと思ってる。  複雑な事情を抱えてる同級生もいることも知ってる。  颯太の父は多少の難はあるが、大人に傷つけられた経験のない子供はいない。
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