子供にはあたりまえ

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 山々からの澄んだ空気が、夏だというのにひんやりと肌に触れてくる。神様のメッセージなど聞こえなくとも、この場の神聖さは充分に感じられる。聞く力がなくなって、いままでいかに過緊張な状態に、自分がなっていたかを、やっとケイタは認められた。  大人が、大きな仕事を終えたときに『肩の荷が下りた』という表現を使うが、その意味わかった。いまのケイタの気分にぴったりだと思った。  誰にも何も背負わされない身軽さは、味わったことがなかった。  走り出したいような晴れやかさだ。  清香は力を得たことで、これから相当な重荷を背負うのに、気づいていない、清香の性格は力を得たとて変わらない。人のせいにして生きていくんだろう。  父に迎えに来てもらうということは、清香を切り捨てる決断、ということだ。  ケイタは自分で始めて、人生を左右する決断をした。この先の自分の道を、自分の意思で決めた。子供である限り、すべてを自分の決断で方向を定めることはできないだろうが、もう清香に、ケイタの人生を委ねなくていいし、清香に決定権を預けなくていい。それは清香に振り回されていた過去といつか向き合うために、必要な決断だ。
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