子供にはあたりまえ

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大浴場は温泉で、男女で入り口が分かれていて、暖簾に『三峯神の湯』と書いてあった。 ケイタたちの他はまだ、宿泊者は大浴場には現れなかったから、男湯はケイタの貸切みたいなものだ。 かけ湯をして、体を洗う。浴槽は広く、いつも家で入るお湯よりも少し熱めの湯の中に、徐々に浸かっていく。 肌が熱めのお湯に馴染んできて、ケイタは首まで湯船に入り、両手足を大きく伸ばした。じんじんんと末端から温まってゆく。 ぐっと両手を頭上へ、両足は湯の中で力を一瞬、四肢にこめて、次に一気に緩める動作を何度も繰り返す。心地よく体が弛緩して、凝り固まった心も何だかほぐれていく感覚だった。 いったん洗髪しに湯を出る。 お風呂セットのシャンプーとトリートメントで頭を洗って、シャワーで勢いよく流す。 さっぱりしたら、清香など、どうでもよくなった。 体もシャワーで泡を綺麗に洗い流すとすっきりして脳まで緩んだ。 再び湯船に浸かる。 清香がどんな人生を歩もうが、もはやケイタは関係ない。気分が軽くなってくる。 「ほんどうにーどうでもーいーい!」  エコーのかかった空間にケイタの放った声が予想以上に響く。
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