子供にはあたりまえ

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子供にはあたりまえ

 秩父神社には、つなぎの龍と呼ばれる青龍がいる。ついでに梟と虎もいる。  川瀬祭が終わり浅賀颯太が通う秩父第一小学校も、いよいよ夏休みに入り、同級生の千島大地との自由研究は、秩父神社のミニチュアを木工作品で制作することにした。  颯太にとっては小学生最後の夏休み初日、自宅から徒歩五分とかからない距離にある秩父神社の写真を大地と撮っていた。  境内の神門の横には『お百度参りはしないで下さい。わら人形は打たないで下さい』と注意書きされた看板がある。 「こんな看板あったっけ? 面白いから撮っておこう」  颯太が言うと、 「本気でわら人形なんて打つやつがいるんだな」  大地が感心する。  南門の一の鳥居前に、マイクロバスがとまり家族連れの観光客が大量に吐き出される。入口の手水舎が大渋滞している。    颯太は、ふと空を見上げて「あ、龍だ」指さした。神門で写真を撮っていた大地も空を見た。  雲ひとつない眩しい青空を、ゆっくり昇ってゆく龍を颯太は目で追って「雨が降るよ」と大地に言った。 「颯太がそう言うなら、戻ったほうがいいんだろう」
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