2.君の笑顔

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◇ 三月も中旬になると、ポカポカと暖かい日が多くなる。風はまだ少し冷たいけれど天気は晴れで、絶好のデート日和となった。 フラワーパークの入口で待っていた陽茉莉は車椅子の亮平を発見すると、大きく手を振りながら亮平に駆け寄った。 「亮平さん、おはようございます」 「おはよう、陽茉莉」 たった一週間ぶりに会うだけなのに、会えただけで陽茉莉のテンションは高くなる。今日を待ちわびていたのだ。 それに今日は私服の亮平。 爽やかな薄い水色のシャツにチノパン、スニーカー。 スーツ姿とは違うカジュアルな装いに陽茉莉の胸は自然と高鳴ってしまう。 「どうかした?」 「亮平さんがかっこよくて見とれちゃいました」 陽茉莉のストレートな言葉に亮平は面食らう。 だが亮平もふっと目尻を下げ、「陽茉莉もとても可愛いよ」と思ったことを口にした。 陽茉莉は一瞬きょとんとし、その意味を遅れて理解するとぱあっと嬉しそうに微笑んだ。 そんな姿を見ていると、亮平は何でもスルスルと口に出してしまいそうになる。社交辞令やお世辞、駆け引きなどはビジネスの世界へ置いてきた。 陽茉莉といると自分をさらけ出しそうで怖い。 けれど一方で、それを期待している自分がいることも確かで……。 「車椅子、押してもいいですか?」 「えっ? あ、ああ、いいけど」 話しかけられ亮平の思考は戻された。 「陽茉莉、車椅子押すの疲れると思うから無理しないでね。自分でもできるから」 「わかりました。でも私、亮平さんの車椅子押したかったんです。迷惑だったら遠慮なく言ってくださいね」 「……迷惑なわけ……ないよ」 陽茉莉の押し方はとても優しい。亮平の感じるちょうどいいスピードで進んでいく。 半年前、段差を乗り越えるときに助けてくれたあの感覚がよみがえるようだ。 「うわー、梅が満開。これは桜? いや、梅? どっちだろう?」 亮平の後頭部から楽しげな声が聞こえてくる。 亮平は「うん」だとか「そうだね」だとか、そんな相槌しか打てなくて申し訳なく思ったが、ふと後ろを振り返れば陽茉莉とバチンと目が合って満面の笑顔で微笑まれ、亮平の心は簡単に絆された。 「……楽しいね」 「はい、とっても!」 屈託なく笑う陽茉莉はやはり向日葵のように明るくて、亮平も自然と笑顔になれた。 そんな時間はとても尊いものに思えた。
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