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亮平がトイレから出ると待ち合わせ場所に陽茉莉の姿はなく、キョロキョロとまわりを見渡す。すると少し先の方でフラワーパークの地図片手に老夫婦に道案内をしている姿を発見した。
実に陽茉莉らしいなと思った。
困っている人には躊躇なく手を差し伸べる。それはとても自然で決して恩着せがましくなく、穏やかな時間をくれる。亮平も陽茉莉からそんな時間をもらった一人だ。
だから気になるのだろうか。
手を掴みたくなるのだろうか。
自問自答してみるも、それだけではない気がする。陽茉莉が親切なのを差し引いたとしても、彼女にはもっともっと魅力がある。あの向日葵のように明るい笑顔を向けられると、亮平はどうしようもなく胸が疼く。
あの笑顔を独り占めしたい。
自分にだけ向けてほしい。
そう考えると、行きつく答えはひとつ。
――俺は陽茉莉のことが好き
きっとそうなのだ。
そうとしか考えられない。
けれど――。
「俺が人を好きになる……?」
そんなバカなとも思う自分もいるわけで。
亮平の心はさざ波のようにザワザワと揺れた。
「あの、すみません」
突然声をかけられ亮平は顔を上げる。知らない女性が二人、目の前に立っていて好奇な目で亮平を見ている。
「水瀬データファイナンスの社長さんですか?」
「……はい、そうですが」
「やっぱり! 前にテレビで拝見して。あの、一緒に写真撮ってもらえませんか?」
スマホを胸に抱えながら目をキラキラさせる女性たちに亮平は困惑の表情を浮かべた。
車椅子社長としてメディアに取り上げられるようになってからこうして話しかけられることも少なくない。それは水瀬データファイナンスが広く知れ渡り結果として会社のためになるなら多少のことは我慢しようと決めていたことではあるのだが。
どうしても今日だけは親切に「はい」と言うことが出来なかった。
視界の端に陽茉莉が映る。
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