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episode3
──「はぁ〜…温かい…やっぱりお風呂って気持ちい…」
お湯を手ですくい、顔にかける。
”コンコン”
突如、扉をノックする音が聞こえた。
『ねぇ、夢来。俺も一緒に風呂入っていい?』
と、一言。
(はぁぁぁっ!?!?!?//////)
「だっ…だだめっ…だめに決まってるでしょ…!?何言ってんの!」
磨りガラス越しに星野の影が見えた。
『え〜…やっぱダメ…?』
「当たり前でしょ!?あんたね、居候の身だってこと分かってる?私達は別に付き合ってる訳じゃないの、恋人同士じゃないの。あんたが…行き場所がないっていうから、しばらくの間ここに居候してもいいって許可しただけよ。」
『……分かってるよ、それくらい。ちぇっ…冗談だっての。だってさ、夢来の肌すげぇ気持ちいいんだもん。触りたくなっちゃうんだよ…。』
「あーーはいはいっ!いいから早く、そこから出ていって!!」
『…わかったよ…ごめん、いつもいつも。』
彼は一見、人に興味が無さそうに見える。
自由人で気まぐれ。
なのに、たまに甘えてくるんだ。
私が落ち込んでる時は優しいし、心配してくれるし…。そう、それはまるで…野良猫のよう。
私はまだ、元彼のことを完全に忘れられないでいる。それに星野は気づいている。星野が気づいてることに、私も気がついていた。
しばらくは恋愛から離れて1人になりたいと考えていたものの、どうしても人の優しさや温かさに触れていたいと思ってしまう。星野と一緒にいると心の傷が癒されるから…。
恋人でもない上によく知らない男の人を自宅に招いて居候させているだなんて、正直このままなのは宜しくないと分かってはいる。
しかしあの日、彼がここに居候させてほしいと言ってきたあの時、私はどうしても彼を拒めなかったんだ。
──ずぶ濡れになって疲れ果てた私を見かねてか、彼は心配してくれた。そんな彼に、これ以上心配かけるのは申し訳ないと思って気持ちを少しづつ落ち着けた。
重くなってしまった場の空気を少しでも軽くしようと思い、他愛ない会話を始めて…それから仕事の話になって、年収1000万は稼いでいると平然とした顔で言うものだから、これはおかしいと感じた。
自分とそう歳の変わらないであろう彼の顔をじっと見つめ、年齢を確認する。
2つ年下の25歳だと言うことが分かった。
それと同時に職業や名前についても判明し、
よくCMやテレビ番組で見かけていたあの芸能人、空閑星野であると認識した。
──『俺さ、1ヶ月くらい前まで付き合ってる恋人がいたんだ。でも、浮気されてた…ついでに色々と利用されてたことも知ってさ…そんで辛くなって、芸能界引退したんだ。今はまだ、何もする気が起きなくて…何も考えたくなくてさ…。…あのさっ…しばらくの間だけでいいっ!ここに居候させてほしいんだっ…お願いしますっ…!』
そして彼は、私の家に居候するこになったのだった。
─風呂からあがり、夢来は寝巻きに着替える。色んなことを思い返していたため、いつもより長めに浸かってしまった。そのせいなのだろう、少しばかりのぼせてしまったらしい。
「み…みずぅ〜みずをくれぇ〜ぃ…」
夢来はフワフワする頭と体で台所へと向かった。
冷蔵庫から水を取りだし、コップ1杯分をゴクゴクと一気に飲み干す。
一息ついて、リビングにあるテーブルに目をやる。そこには星野が作ってくれたであろう料理が並べられているが、当の本人は見当たらない。
(んん〜…?星野どこいったんだろ…トイレかなぁ?)
「はぁ〜もうちょっとだけ休憩〜…」
そう言うと、夢来は力無くソファに腰を下ろした。それから数分ほどは経っただろうか、目を閉じて休んでいた時だった。
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