episode1

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6月中旬。 今年もまた、恒例のごとく梅雨がやってきた。延々と()むことのない雨を傘でしのぎながら、夢来(めぐ)は足早に彼氏の自宅へと向かっていた。 「久々に朔夜(さくや)に会えるっ♪手料理、喜んでくれるといいな〜。」 ここ最近、ずっと会っていなかった。 聞くところによれば、職場で新人教育の担当を受け持ったため仕事が増え立て込んでいる、との事だった。 あともう少しで着くというのに、こんな時に限って突然、大粒の雨が降りはじめる。 傘をさしていても端から雨が振り込んできて、新調(しんちょう)したばかりの鞄とフレアスカートが虚しくも濡れた。 と同時に、気分も沈む。 そんなこんなでようやく彼氏の自宅前までたどり着いた時だった。気がつくと、私の足は無意識に踏みとどまっていた…。 『ん…ぅん…やっ…』 女性の(みだ)らな声が、よく知るマンションの玄関先から聞こえてくるのだ。 声がする方へそろりそろりと、1歩ずつ近づく。そして、物陰からこっそりと顔を出して状況を確認した…その時だった。 ─こそには、”見知らぬ女性”と抱き合いながら深い口付けを交わす、”朔夜”の姿があった。 その瞬間、うっかり手を滑らせてしまった。風呂敷で包んだ3段重ねの弁当箱は、無惨にも地面へと叩きつけられる。 そして、まだほのかに暖かい食材は冷たい地面に散らばった。 ─『ん?……あぁ…夢来(めぐ)か…。お前さ〜、…もう用済みだからいらねーわ、だから帰れよ。』 一瞬、朔夜の口から発された言葉の意味が理解できなかった。数秒ほどしてようやく理解できた。しかしそれは、あまりにも残酷な言葉だった。ショックのあまり、腕の力が抜け差していた傘すらも手から滑り落としてしまう。滑り落ちた傘は逆さまに落下し、それからしばらくの間その場で冷たい雨に打たれ続けた…。 一部始終を見てしまった”その青年”に、拾われるまでは…。 ─それからだった。 彼が私の家に転がり込んできたのは…。
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