それは、恋の始まり

2/7
前へ
/7ページ
次へ
「……そちらは、お嬢様ですか?」  吉岡さんが、私に視線を移す。 「ええ、そうです。春花、自己紹介しなさい」  お父さんが、私に優しく声をかけた。声色はとっても優しいけど……その目は笑っていない。何か失礼があってはいけないから、お父さんも緊張してるんだ。  ……落ち着いて、答えなきゃ。  私は柔らかく微笑んで、吉岡さんの顔を見つめた。 「北原春花と申します。吉岡様、日ごろより弊社の製品を愛用してくださり、ありがとうございます。パーティー、楽しまれてくださいね」  頑張って作った、愛想笑い。そして、礼儀正しい言葉遣い。  ……息苦しいな。 「ありがとうございます。よく出来たお嬢様ですね」  吉岡さんはそう言って笑顔を作るけど……目が、笑っていない。完璧な愛想笑いだ。  パーティーが始まってからお話した、どのお客さんもそうだった。言葉では褒めても……本心では、私の事なんてどうとも思っていない。みんなの関心は、私じゃなくて北原グループにあるのだから。  ……私がここにいる意味、あるのかな。  そんなこと、考えちゃいけないって分かってる。パーティーに集中しなきゃいけないのも、分かってる。  でも、こうも無関心な態度をとられると、モヤモヤしちゃうよ。まるで、私が必要とされていないようで……少し悲しい。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加