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気まずくなってしまった空気を誤魔化すかのように、明るい声で冗談めかしていた美森だったが、次第に堪えきれなくなり、ついにポロポロと大粒の涙を零し始めた。
「しゃ、社長……!」
レースに縁どられた白く上品なハンカチを即座に取り出し、白百合が手渡す。
「周囲を心配させるような言動は、職場には持ち込まないって、起業する時に決めてたのにっ、社長として、社員と会社を守るって決めてたのにっ……」
ハンカチに顔を伏せて、美森は子供のように泣きじゃくった。
「僕っ、本当に霧谷さんのこと好きだったんだっ、だからハッキリと振られたほうが良かったっ……いらなくなった物を捨てるような別れ方をされるなんて、まったく思ってなかったからっ、すごくショックで……っ」
親身になってくれる部下の優しさに触れて気が緩み、ろくに眠ることも出来ないほど、独りで抱え込んでいた苦しみが止められない。
「きっと霧谷さんと僕は、ここまでの縁だったんだよねっ……白百合さんの大切な時間をっ、こんな愚痴みたいな話に付き合わせちゃってっ……ほんとにっ、ごめんっ!」
白百合を巻き込んでしまった己のふがいなさを心底申し訳ないと思いながら、美森は頭を下げた。
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