【01】花屋の悲喜劇

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 気まずくなってしまった空気を誤魔化(ごまか)すかのように、明るい声で冗談めかしていた美森だったが、次第に堪えきれなくなり、ついにポロポロと大粒の涙を零し始めた。 「しゃ、社長……!」  レースに縁どられた白く上品なハンカチを即座に取り出し、白百合が手渡す。 「周囲を心配させるような言動は、職場には持ち込まないって、起業する時に決めてたのにっ、社長として、社員と会社を守るって決めてたのにっ……」  ハンカチに顔を伏せて、美森は子供のように泣きじゃくった。 「僕っ、本当に霧谷さんのこと好きだったんだっ、だからハッキリと振られたほうが良かったっ……いらなくなった物を捨てるような別れ方をされるなんて、まったく思ってなかったからっ、すごくショックで……っ」  親身になってくれる部下の優しさに触れて気が緩み、ろくに眠ることも出来ないほど、独りで抱え込んでいた苦しみが止められない。 「きっと霧谷さんと僕は、ここまでの縁だったんだよねっ……白百合さんの大切な時間をっ、こんな愚痴みたいな話に付き合わせちゃってっ……ほんとにっ、ごめんっ!」  白百合を巻き込んでしまった(おのれ)のふがいなさを心底申し訳ないと思いながら、美森は頭を下げた。
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