【00】プロローグ

1/6
211人が本棚に入れています
本棚に追加
/283ページ

【00】プロローグ

 都心の喧騒から離れた郊外に、視界に入っても自分の日常とは関係がないと誰もが素通りするであろう、2階建ての地味な建造物がある。  その正体は、世間に決して存在を知られてはならない、非合法組織「96」の連絡施設だ。  「新しい身分証も正式に受け取ったし、必要な手続きは、これで全部終わったの……あっ!」  廊下を歩いていた、ピンクブロンドのショートボブが似合う可愛らしい青年が、突然ビクリと体を硬直させて立ち止まる。  前方から、年月を感じさせるスタジアムジャンパーを着た小柄な青年が、駆け寄って来ることに気付いたからだ。  トレードマークでもある黒いキャスケットのつばの陰が、笑ったように見える糸目にかかり、ハチワレの子猫をイメージさせる。 「なぁ、あんた医療班のイチゴだよな?お洒落だし、ピンクの髪が似合ってるから、すぐ分かったよ!」  そう親し気に声をかけられたイチゴが、ぎこちなく微笑みながら挨拶を返した。 「初めましてなの……キミはトラフクなの?」 「え?イチゴもオイラのこと知ってたんだ?」 「う、うん。オジゾー……じゃなくて、ボスから聞いたの」 「オジゾー?あぁ!宴会大臣のジミー……じゃなくて、片岡の旦那か!」
/283ページ

最初のコメントを投稿しよう!