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「だからといって、ぼくが謝っても、美鈴ランさんは返してあげられないの……本当に、ごめんなさいなの」
と、真摯に詫びたイチゴに、最初に声をかけてきた時と変わらぬ口調でトラフクが語りかけた。
「オイラ、生まれも育ちも裏社会なんだ。でも全然、見た目に迫力ないだろ?」
「うん……あ、可愛いって意味なの」
素直に頷いてしまい、慌てるイチゴを見てトラフクが笑う。
「だから仕事をした後に約束していた報酬を減らされたり、とぼけられたり、結構トラブルが多くてさ。真っ当な抗議をしても逆切れされて、ナイフをチラつかせながら『殺されないだけ、ありがたく思え!』って、脅されることも別に珍しくなかったんだ」
「約束を守らない上に暴力なんて、酷い話なの!」
そうイチゴが眉をひそめると、トラフクはヒョイと肩をすくめた。
「そういう世界に生まれたんだから仕方ないよ。もちろんオイラも許せなかったから、きっちり慰謝料を上乗せして回収させてもらったけどね」
と、立てた指を二本そろえて胸に当て、スッと抜く仕草をしてみせる。
「でも、そいつらがオイラに突きつけた『ナイフを製造した工場』を許せないって思ったことは、今まで一度もなかったよ?」
「……え」
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