【01】花屋の悲喜劇

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【01】花屋の悲喜劇

 一日の業務が終わり、大半の照明を落とした薄暗い空間に、テレビの音声だけが独り言のように流れている。  事務机に寄りかかったスーツ姿の青年の横顔は、テレビ画面の明るい光に照らされているものの、まったく内容は頭に入っていなかった。  裏表のない純粋な輝きで人々を魅了してきた瞳も、ぼんやりと焦点が定まっておらず、まるで魂が消えかけているように見える。 「社長。私の思い過ごしなら良いのですが、朝からお顔の色がよろしくないですね。なにか、ご心配事でも?」  遠慮がちに声をかけられた志塚美森(しづかみもり)は、社員が全員帰ったと思っていたため、驚きながら視線を向けた。  そこには白いブラウスと黒のタイトスカートが似合う、スタイル抜群の華やかな美女が立っていた。 「……白百合(しらゆり)さん!もしかして僕が個人的な理由で落ち込んでるって察して、ふたりきりになる終業時間(タイミング)まで待っていてくれたの?」 「少々、気になってしまったもので。社長はビジネスになると大胆ですが、プライベートでは繊細な御方ですから」  と、白百合が微笑む。  ほどかれた彼女の長髪がフワリと揺れて、微かに花の香りがした。  ここにいるのが美森以外の者であれば、猛烈に彼女を意識してしまっただろう。
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