どちらを

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 「わあ嬉しい」  筒野が深紅のブラジャーを掲げて高らかな声をあげた。  「持ってきてくれたのね」  「いや、ポストに入れておしまいにしようかと思ってたんだけど……」  「それでもこうして渡してくれたんでしょ。ありがとう。大事につけるね」  はしゃいでみせる彼女の横で端山が顔を背けている。その隣の田山が「女の人にブラジャーなんてプレゼントしますかね、普通。しかも貰った方も俺たちのいるところで見せびらかして」とボソッと呟いたのを確かに聞いた。  「あの……僕」  その次の言葉がうまく出てこず、敬陽は固まってしまう。  津彌を信じることにした今、敬陽は端山たちと接触する気はもうなかった。ただ、筒野にあげると約束したワインレッドのブラジャーだけは貰ってほしいと思った。白く瑞々しい肌にごてごてと花が咲いた布地はとても映えるだろうと、拙い想像をして、ポストに入れておこうと思い立った。  結局、端山が登場したことでのこのこついてきてしまったのだが。  冷麦を食べ、鯉に餌をやり、客間の座布団に足を崩して座りジュースを飲む。居心地の悪さと恍惚とした気分がないまぜになり、熱中症でも起こしてしまったような気分だ。  顔が火照っているのを心配して、冷房の効きすぎた中、端山が隣に来てうちわで優しくあおいでくれる。筒野が冷房の温度を下げると快適な空間が出来上がり、食後の満腹感もあいまって敬陽は眠くなってきた。  「津彌と話してきたんだね。何を話してきたんだ?」  うちわの涼風のような声音が耳から脳へ伝う。敬陽は心地よい身震いを覚えた。  「君は本来関係ないただの少年だから。津彌や私たちが巻き込んでしまったのだから、どっちを信じていいのかわからないだろう。無理に片方を信じることはないんだ。まず話を聞いて、よく噛むように頭の中で繰り返して、誰が正しいのか、君が判断をするんだ。いいね……」  いつのまにかゆらゆらと体が傾いでいた。まぶたが重くて仕方がない。  右に座る端山が敬陽の左腕に手を回し、優しく叩く。そのたびにまぶたが下がっている。手が、風が肌を撫でる。  最後に筒野が頭をさらりと一撫でし、少年はこてんと横になった。
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